ストーカー飼育日記

         (1)
 OLになってまだ間もない堀川はるみは、駅から自宅までの道を急いでいた。
 時間帯は宵の口とはいえ、帰宅が同じ方向の人影はまばらで、街灯の数も少なく、あまり快適とは言えない。
 はるみが一人で住むアパートに急ぐのにはもう一つ理由があった。
 ここしばらくの間、ずっと尾行されている気がするのだ。
 いや、確実に尾行されていた。はるみの後方から見え隠れするように、一人の男がずっと後をつけていた。
 はるみは気持ちを決めていた。
 今日は自分を尾行している奴を捕まえて、今後このようなことがないように厳しく注意しようと思っていた。
 はるみは数年前から護身術を習っていたため、相手が武道の有段者でもない限り、素手での格闘には自信があったのだ。
 自分の部屋のすぐ近くに着いたとき、はるみは素早く物陰に身を隠した。
 目の前の尾行の対象が突然消えてしまい、男は慌てて路地に飛び出し、あたりを見回した。
 尾行してきた男を確認して、はるみは少々拍子抜けしてしまった。
 男は風采の上がらないスーツ姿の中年で、自分が本気を出さなくても充分に勝てる相手に違いなかった。
「動くな、警察を呼ぶわよ」
 尾行していた男の背後から、はるみが鋭く威嚇した。
 はるみの声に一瞬びくりとなった男は、その場に凍り付いた。
「ここしばらく、ずっと私の後ろから付いてきてるわね。どういうつもり?」
 はるみの問いかけに、男が振り向いて答えようとした。
「動かないの。そのままで答えなさい」
 はるみの一括に、男ははるみに背を向けたまま話しはじめた。
「ごめんなさい。その・・・悪気はないんです。通勤の車内であなたを見かけて、それですごく気になってしまって・・・、許して下さい、警察にはなんとか・・・」
 言い終わると、男ははるみに向き直り、道ばたに土下座し、額を地面に擦りつけた。
「こんなことが勤務先に知れたら、もう、僕の一生は終わりです、どうか警察沙汰にするのだけは許して下さい」
 泣かんばかりの必死の懇願に、はるみは残酷な取引を申し出た。
「そうね、じゃあ、私の奴隷になりなさいよ。ちゃんと私の言いつけが守れたら、警察には言わないようにしてあげるわ」
「あああ、ありがとうございます。地獄に仏とはこのことです。何でも言うことをききますから、警察だけは許して下さい」
 自分のこれからがどうなるのか、知る由もない男は、警察沙汰にならないというそれだけで、この残酷な取引に応じてしまった。
        (2)
 女性らしくこぎれいに整頓された部屋に男は通された。
 珍しそうに部屋の中を見回す男の背中を、はるみは乱暴に蹴り飛ばした。
「なにをきょろきょろしてるの。奴隷はさっさと服を脱いで、そこに正座しなさいよ」
 はるみの残忍な性格は、火がつくと止まらないことを自身も知っており、普段は隠して生活していた。
 しかし、相手が犯罪者としての負い目を持ている男なのだ。何をしようが自分が優位に物事を運べるのだ。こんな機会は滅多にないことだ。
「たっぷりと楽しませてもらうわ、あはははは・・・」
 絶対優位を得たはるみは、笑いがこみ上げるのを禁じ得なかった。
         (3)
「あなた、どうして私を尾行してたの?。お名前からゆっくりと教えてちょうだい」」
 ソファに座ったはるみの前に、正座した男は情けない声でいきさつを語りはじめた。
「はい・・・、名前は川本一郎と申します。若い頃は結婚していましたが、妻には浮気された挙げ句に逃げられました。ずっと孤独だったんですが、はるみさんを電車で見かけてから、この人が理想の人だと思えるようになったんです。あとは気が付いたら、毎日尾行するようになって・・・すみません」
「ちょっと待って、なんで私の名前、知ってるの?」
 はるみは部屋の前にも表札は掲げておらず、泥棒除けのために全く知らない偽名の男性名を書いた紙を貼っているのだ。
「いや、それは、はるみさんのポストから湯便物を・・・」
 そうだった。ちょっと気をつければ分かることだ。郵便物を盗むことが出来れば、本名や電話番号などの個人情報を盗むことなど、実に朝飯前なのだ。
「・・・、それで、・・・最近の変な電話もあなたね。許せないわ・・・。他には?」
 自分の迂闊さもあるが、やはり卑劣な男の態度に腹が立つ。
「はい・・・、申し訳ないのですが、朝出されたゴミの袋から、下着や生理用品を時々いただいて・・・・・」
 消えいりそうに答えた一郎の言葉に、はるみは怒りを覚えた。
「何よ、じゃあ、私の生理の日とか・・・全部知ってるのね・・・」
 許せない、こいつだけは許せない。そう思ったはるみは決心したように一郎に告げた。
「決めたわ、徹底的に奴隷に落としてあげる。命令に背いたら、即、警察よ」
「ああ・・・警察だけは・・・」
 はるみの残忍さに気が付いてない一郎は、この時点では警察のほうがましであることに気が付いていないのだった。
「あなたみたいな嫌らしいヤツに服は必要ないわ、裸になって、自分のしたことを反省しなさい」
 どうしてそんなものがあるのか、はるみは一本鞭を持ち出し、裸になった一郎の全身を鞭打ちはじめた。
「ごめんなさい。ゆるしてください」
 泣き喚き、床を転がってのたうつ一郎を、
はるみの鞭は逃さなかった。
「変態、許せないわ」
 はるみが打ち疲れた頃には、一郎の全身は痣だらけになり、息も絶え絶えになってしまっていた。
「明日から、あなたをホントの奴隷にしてあげるわ。覚悟しなさいね」
 冷たく言い放ったはるみは、喘ぐ一郎を放置したままで眠りに就いた。
         (4)
「起きなさいよ、いつまで寝てるの。奴隷としての最初の仕事をあげるわ」
 寝起きのはるみが、床にだらしなく寝そべる一郎を蹴り起こした。
 慌てて正座する一郎を蹴り倒し、その口に漏斗くわえさせた。
「あなた、私の下着も盗んだんでしょ。じゃあ、下着の奥から出る物なんか、簡単に飲めるわよね・・・」
 寝起きで不機嫌なはるみは、躊躇することなく一郎の顔面に跨った。
 昨夜、シャワーも浴びずに眠ったはるみの秘所から、一郎の口めがけて奔流がほとばしった。
「飲みなさい、全部よ。床にこぼしたら承知しないからね・・・」
 女性の尿など飲んだことのない一郎は、無理な命令に必死で従おうとしたが、どうしても溢れてしまう大量の尿に、溺れるようにせき込んでしまった。
「何やってるの・・・・、役立たずね。仕事から帰ってくるまでに、きれいにしておくのよ。今日あなたの水分はそれだけよ」
 こみ上げる嘔吐感と嗚咽を堪えながら、一郎は床にこぼしたはるみの尿を啜った。
 それを確認したはるみは、楽しそうな笑みを浮かべ出勤した。
 ドアに鍵がささる音がした。
 はるみが帰宅したのだ。
 部屋に入ったはるみは、床の具合を確認して満足気に言った。
「ちゃんときれいに出来たわね。よし、じゃあご褒美に晩ご飯を上げるわ」
 床に寝そべった一郎の口を、はるみが覗き込む。
 自らの口に指を突っ込み、無理矢理に嘔吐をはじめた。
「いい?、今日はねおいしいもの食べてきたから、栄養があるわよ・・・」
 ほどなく、はるみの口から大量の吐瀉物が一郎めがけて吐き出された。
 はるみの胃液を含んだそれは、容赦なく一郎の顔面を襲った。
「何してるの、ちゃんと食べなさい。ちゃんと味わって食べるのよ・・・」
 自分の吐瀉物にまみれた一郎の顔を、はるみは楽しそうに覗き込む。
「そう、それ食べないと飢え死によ。ほら、まだ出るんだから・・・」
 際限もないように続けられる吐瀉物責めに思わず一郎は赦しを願った。
「やめて・・・ゆるして」
 一郎の泣き声に、我が意を得たとばかりに
はるみは新たな命令をした。
「そう、ゆるして欲しいのね、いいわ。じゃあ、私を満足させるのよ。これが出来たら、許してあげるわ・・・」
 挑むような目で、はるみは一郎の顔面に跨った。
「ほら、ちゃんとするのよ。いい加減なことしたら、分かってるでしょ・・・」
 何をすればいいのか、覚った一郎は必死になってはるみの大事な所、つまりは自分自身が最も憧れていた箇所への奉仕をはじめた。 しかし、一郎の経験などたかが知れいている。別れた自分の妻への奉仕など、形式だけのものだったのだ。そんな中途半端な技術ではるみを満足させられるはずもない。
 次第次第にはるみは苛立ちはじめた。
「う・・・ちっともよくならないわね。へたくそね・・・」
 努力をすればするほど、懸命になればなるほど、はるみの苛立ちは増す一方だった。
「だめ、もういいわ。あなたがどうしようんもない下手くそだってことは分かったわ。明日から、覚悟しなさいね。今日はもう眠るからね」
 失意を感じた一郎に背を向けたはるみは、怒りで寝付けないままだった。
         (5)
 
 自分の未熟さから、相手の怒りを招いたことで、一郎は一睡も出来なかった。
 警察に通報されるのか、それとも・・・その不安が頭から消えない。
 はるみの寝起きは、昨夜の不機嫌をそのまま引きずっていた。
「あんなことも出来ないなんて、本当に役立たずね。役立たずにはそれなりのことをして貰うからね・・・」
 冷たく言い放ったはるみは、一郎の顔を跨ぐと、昨日の朝と同じように放尿をはじめた。
「いい?、あなたにお似合いの朝ご飯をあげるからね。もうこれ以外に食べ物はないのよ。これ食べないと飢え死にするわよ」
 放尿が終わったはるみは、尻の位置をずらすと下腹部に力を込めた。
 信じられない大量の便が、一郎の顔面をめがけて容赦なく降り注いだ。
「食べなさい。全部・・・」
 悲鳴を上げる一郎。
 はるみの大便を食べきれずにもだえ苦しむ一郎を蔑視しながら、はるみは出ていった。
「食べてなかったら、警察よー」
 楽しそうに出ていくはるみが消えた後には、嘔吐に苦しむ一郎がいた。
         (6)
 夜、はるみが帰宅した。
 結局、一郎は大量の便を処理仕切れず、絶望とともにはるみを迎えた。
 泣きながら一旦は口に入れてみるものの、とてものことに胃袋まで納めることができなかったのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、なんとか頑張ったんですけど、どうしても無理でした。
次からはもっと一生懸命にしますから、許してください・・・」
 泣きながら土下座して懇願する一郎の頭を、はるみは踏みつけた。
「ふん、どうせそんなことだろうと思ってたわ。それよりこっちに来なさい。今日は仕事のことでむしゃくしゃしてるの。ちょっとストレスを発散させてもらうからね・・・」
 薄ら笑いを浮かべたはるみは、一郎の頬を打ちはじめた。
 往復、左右交互、何十発も打たれた一郎は耐えきれずに頭を抱え、転げて逃げ回った。「こら、何逃げてるのよ。まだ終わってないのに・・・この・・・」
 頭部を庇う一郎の身体を、はるみは蹴りとばした。更にまたも一本鞭の連打が一郎を襲う。
 泣きながら一郎は悲鳴を上げ逃げ回るが、それが益々はるみの残虐さに拍車をかけてしまう。
「うるさい、泣くな。逃げるな」
 泣き叫ぶ一郎の口に、はるみの足がぐい、とねじ込まれる。赤いペディキュアが施された足が一郎の口の中でくねる。
「お風呂場に来なさい、罰よ」
 風呂場に仰向けに寝かされた一郎の口に、またも激しい尿流が注ぎ込まれた。
 一朝一夕で飲めるようになるはずもなく、またも一郎は吐き出してしまった。
「この役立たず・・・、口を開けてなさい。もっと、大きく・・・」
 当然のように、はるみはその口に便をねじ込んでいった。
 またも大量のそれは、一郎の口から溢れ、風呂場には一郎の呻き声が響いた。
「明日の朝もするからね、それきちんと掃除しておくのよ、もちろんあなたの口でね、あははは・・・」
 やっと気が治まったのか、はるみはシャワーを浴びてから浴室を出ていった。
         (7)
 翌朝、一郎は正座したままはるみの目覚めを待っていた。
 昨夜、やはり排泄物の処理は完遂出来ず、結局シャワーで洗い流すことになったのだ。
 また限りない罰が待っているのだ、どれほど赦しを願ってもそれは得られない。
 一郎は覚悟を決めた。
 目覚めたはるみに向かって、一郎は必死の思いで願い出た。
「お願いします。もう僕を解放して下さい。もう、警察に通報されても構いません。このままでは僕は死んでしまいそうです。お願いです、もう許して下さい・・・」
 涙を浮かべ、必死で赦しを願う一郎を、はるみはにっこりと笑いながら見下ろした。
「そう・・・警察に通報してもいいのね。覚悟は出来てるってことね・・・・」
「はい、仕方ありません。このままの状態より、警察に捕まる方がまだましだと・・・」
 本音を吐いた一郎の頬を、平手打ちの強い一撃が襲った。
「何ばかなこと言ってるの、許すわけないでしょ、そんなこと。あなたみたいな便利なおもちゃ、手放すはずないじゃないの」
 意外な言葉に驚く一郎の髪をぐい、と掴むと、はるみは更に続けた。
「いい?、あなたはね、これからずっとずっとこの部屋で暮らすの。私のおもちゃとしてね・・・。近いうちに私の友達の相手もさせるわ。あなたは行方不明のまま、ここで死ぬまで暮らすの。私のストレス解消用の便器としてね・・・あはははは・・・・」
 あまりの言葉に、一郎は呆然となった。
「そ・・・そんな・・・・」
「そんなもこんなもないわ。あなたが私に逆らえないのは分かってるわよ。それに逆らっても私の方が強いことくらい分かるでしょ。ほら、早く横になって・・・朝一番の濃いのを飲むのよ」
 平手打ちの連打の勢いで思わず転倒してしまった一郎の顔を、はるみは容赦なく跨いだ。
「ああああ・・・」
 絶望感に満ちた叫びを上げる口に、勢いよく尿が流れ込む。
「うるさいわね。泣く暇があったら、ちゃんと全部飲むのよ・・・・ほら。うんこも出るんだからね・・・」
 一郎の顔面は絶望の涙と、はるみの尿の迸りとで濡れ続けた。
 そして、またも大量の黄金が彼の喉を貫通して、彼の人間性までも破壊していくのだった。

               (終)

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